私の見解
(1)類否判断の妥当性
この訴訟は、不正競争防止法の訴訟のため、断定はできませんが、
商標法の類否判断の観点からみた場合、失当のように思われます。
パッケージから、「正露丸糖衣S」と称呼できると認めた場合、この商標を使用しているとかんがえるのが自然です。
また、称呼については、類似すると認めた場合は称呼については類似であり、混同しないから類似でないとするのはおかしい気がします。
観念については、商標で選択された単語から想起される観念を述べるのが普通で、その商品自体を想起するとはあまり言いません。例えば、「アップル」という単語からは「リンゴ」を想起しますが、「コンピュータメーカー」を想起するとは言いません。
外観の類否判断については、判断がわかれるところです。
(2)不正競争防止法におけるパッケージによる類似認定の困難性
パッケージの色彩、AとSの配置及び、文字に係る赤いラインでは、パッケージが類似すると認めさせることができませんでした。文字の表記(カタカナと漢字),フォント,デザインが異なることと,「A」と「S」の間でデザインが異なるという理由からです。
不正競争防止法において、パッケージの類似を認めさせるのは、かなり困難であると思われます。
(3)なぜ、商標権侵害で訴訟を起こさなかったのか。
大幸薬品は、登録商標「セイロガン糖衣A」(第5592842号)を有しています。なぜ商標法に基づき商標権侵害で訴訟を起こさず、不正競争防止法に基づいた商品表示で訴訟を起こしたのでしょうか。①パッケージを真似されたと思いから包装の類似に囚われた、②裁判で登録商標が普通名称であると認定されることをおそれた、③商標権では外観相違により類似とみなされないことをおそれた、といったところでしょうか。