265.Shapes事件1:弁理士 田口健児

平成24年(ワ)第29533号 損害賠償等請求事件(本訴)

平成25年(ワ)第17196号 商標使用差止等請求事件(反訴)

主文

1 被告会社は,原告Aに対し,413万3270円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2 被告会社は,原告会社に対し,別紙本訴商標目録1ないし3記載の各登録商標につき,同目録記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。

3 被告会社は,原告Aに対し,別紙本訴商標目録4記載の登録商標につき,同目録記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。

(以下、省略)

商標目録

商標目録1
商標目録1
商標目録2
商標目録2

 

 ShapesGirl

商標目録3

 

 尾関紀輝

商標目録4

当事者

原告A:ダイエットやボディメイクのトレーナー。立位姿勢における関節角度を調節し,綺麗な身体作りをするトレーニング方法を「シセトレ」として実践していた。

 

原告会社:平成18年5月23日設立。その代表者は,原告A。原告会社は,同年,渋谷において,パーソナルトレーニングジムである「Shapes」を開店した。

 

被告ラスカ:平成19年4月9日設立。フランチャイズチェーン加盟店の募集並びに経営指導に関する業務等を目的。

 

被告会社:平成22年11月22日設立。被告ラスカの子会社であり,フィットネスクラブの経営,企画,運営及び管理並びにフランチャイズチェーン加盟店の募集,経営指導等の経営コンサルティングに関する業務等を目的。

 

被告B:被告ラスカと被告会社の代表者。

経緯

平成22年4月16日:原告会社が営むパーソナルトレーニングジム「Shapes」をフランチャイズ展開する権利を被告ラスカに付与し,被告ラスカは原告会社に対してライセンス料を支払うことを主たる内容とするライセンス契約を締結。ライセンス料は,第1店舗目については売上げの5%,第2店舗目については売上げの4%,第3店舗目以降については売上げの3%。

 

平成22年11月22日:被告会社の設立。

 

平成23年2月8日:上記ライセンス契約のライセンシーを被告ラスカから被告会社に変更することなどを内容とするライセンス契約を締結。

 

平成23年4月1日:上記ライセンス契約につき被告会社の100%子会社でなくてもサブフランチャイザーとなることができるようにすることなどを内容とするライセンス契約を締結。

 

平成23年8月30日:上記ライセンス契約につき契約期間を2年間から30年間に変更することなどを内容とするライセンス契約を締結。

 

平成22年4月15日:原告会社は,被告ラスカに対し,50万円を出資。

 

平成22年10月19日:原告会社は,被告ラスカに対し,140万円を出資。原告Aは,被告ラスカに対し,50万円を出資。

 

平成23年4月13日:原告Aは,被告ラスカに対し,250万円を出資。

原告らは被告ラスカに対して合計490万円を出資していたが,これは被告ラスカの全株式のうち約31.5%であった。

 

平成23年12月14日:原告らの営業権等を被告会社に譲渡することを主な内容とする営業譲渡契約を締結。原告Aと被告会社は,原告Aの顧問料を,被告会社が運営する各店舗の売上金を基準として,心斎橋店は5%,梅田店は4%,その他の店舗は3%とすることを主たる内容とする顧問契約を締結。被告会社は,原告Aに対し,300万円を貸し付け。

 

平成24年2月1日:被告会社は,反訴商標権に係る商標登録出願。

 

平成24年2月10日:本訴商標権につき,原告らから被告会社に対する特定承継による本権の移転登録。

 

平成24年7月6日,反訴商標権の設定登録。

 

平成24年6月23日:被告Bは,原告Aに対し,被告会社の売上計算方法の変更に伴い本件顧問契約に基づく顧問料の過払金が発生しているなどと述べた。

 

平成24年6月28日原告Aに対し,原告らの税理士が被告会社に連絡してきたことにつき,「信頼関係の破壊を決定的にする行為と僕は感じています。」,「今月末で顧問を降りていただく方向で,当社の方で事務手続きを進めます。」などする電子メールを送信。

 

平成24年7月2日:被告会社は,原告Aに対し,本件顧問契約を解除する旨を通知。

 

平成24年9月26日,原告らは,被告らに対し,被告らが共同事業の継続を否定したとして,本件顧問契約及び本件営業譲渡契約並びに共同事業の合意を全て解除する旨を通知。

裁判所の判断

裁判所は、

①営業譲渡契約と本件顧問契約が同日に締結されていること,

②原告Aは原告会社の代表取締役であるから,両契約当事者には実質的同一性があるといえること,

③顧問契約には,営業権及び商標等の知的財産・無形財産譲渡に伴い甲を乙の名誉顧問として迎え入れ旨(2条),甲は,乙の名誉顧問の立場で,乙の事業展開に協力する旨(3条1項)など本件営業譲渡契約との一体性を裏付ける規定があること,

④営業譲渡契約締結によりライセンス料の支払がなくなった一方,このライセンス料と顧問契約における顧問料の売上高に対する割合はほぼ同じであること,

⑤直前の別提案においても,将来的には本件ライセンス契約に基づくライセンス料が原告Aに引き続き支払われることが前提となっていたこと,

から、営業譲渡契約のみが履行されるだけでは契約を締結した目的が達成されないと認めました。

そして、被告会社が顧問料の支払義務を怠ったから、顧問契約と併せて営業権譲渡契約も解除できるため、商標権の移転登録の抹消も認めました。

考察

原告は被告に女性専用パーソナルトレーニングジムに関するノウハウを供与し、商標の使用を許諾してライセンス料を受取っていました。被告はこのビジネスをフランチャイズ化して全国展開し急激に伸ばします。そこで原告は自らの直営事業と商標権などを譲渡します。その譲渡金を一括で受け取ればこの取引は完了でした。一時金で受け取らず、それまでのライセンス料と同じ率で顧問料として将来に渡り、お金をもらうという契約にしたことが問題の始まりでした。

 

つまり、原告側は知的財産権を手渡し、自ら事業を行わないとしたため、顧問料が支払われ続ける後ろ盾を失ってしまったのでした。

そして、時が立つにつれ、被告側が顧問料を払うことが惜しくなったのか、原告側が顧問という立場に飽き足らず、自分も再度実業を行いたくなったのかわかりませんが、顧問料の支払停止ということが起こってしまいました。

こうなった場合、原告は商標権を譲渡してしまっているので、商標の使用差止を請求できません。それどころか、原告の事業が商標権侵害となりかねません。そして、原告にできることは、顧問契約の不履行を求めるぐらいですが、非常に弱い主張です。そこで今回は未払い顧問料の返還請求に併せ、被告が事業に「Shapes」という商標を使えなくするため、商標権の返還も請求したものと思われます。

このトラブルを防ぐために、どうすればよかったでしょうか?

商標の面だけを言いますと、営業は譲渡しても商標権はそのまま保有し、ライセンス料をもらい続ける方法が考えられます。こうすれば、商標権を握っているので万が一トラブルが起きても、強い立場が取れます。

または、譲渡金を一括で受け取り、事業からは完全に手を引く方法です。こうすれば、後に相手がお金を払うことが惜しくなっても、既にお金は受け取り済みです。

 

ただ、本件では、実際には様々な要因があって、これらの方法が採れなかったとは思います。