Shapes 事件2:一旦譲渡した商標権を営業譲渡契約解消により取り戻せるか?

  Yの登録商標     (第5506263号)
  Yの登録商標     (第5506263号)

【事件の概略】

 パーソナルトレーナーだったX(原告)は、独自のトレーニング方法を開発して、「姿勢トレ」あるいは「シセトレ」、「Xメソッド」などと呼んで実践していました。

 このトレーニングが人気となったため、Xは、東京都渋谷区に「ダイエットと女性ボディメイク」専用のパーソナルトレーニングジム「Shapes」(旧渋谷本店)を開店しました。そして、「Shapes」、「シセトレ\姿勢トレ」、「ShapesGirl」、「尾関清輝」を商標登録しました。

 

 Y(被告)は、フランチャイズチェーン事業の総合コンサルティング業務を行っていたところ、Xと知り合いました。そして、「Shapes」の事業をフランチャイズ展開することとなり、Xをライセンサー、Yをライセンシーとするライセンス契約を結びました。Yは、心斎橋店、梅田店、横浜店、新宿店、京都店と次々と新店舗を開店し、事業は好調に推移して行きました。

 

 一方で、Xが経営していた渋谷本店の業績は徐々に悪化していきました。そこで、XはYに事業を譲渡し、その見返りとして顧問料をもらうこととしました。XとYは、「Shapes」(旧渋谷本店)の営業を譲渡すること,Xの商標権をYに移転すること,XがYの会社の顧問に就任することなどについて契約書案に調印しました。

 

<顧問料>

Shapes「心斎橋店」  売上高の5%

Shpaes「梅田店」   売上高の4%

その他のShpaesの店舗 売上高の3% 

 

 ところが、Xは、契約締結後も契約事項であった商号の変更を行わず、パーソナルトレーニング等の指導を行い、宣伝広告等を行うに際し、ウェブサイトで上記のYの登録商標を使用していました。

 不満をつのらせたYは、Xに対し、突然、顧問料の計算方法の変更と過払金請求を通告しました。これに対してXの税理士がデータを出すよう連絡したところ、Yは、

「これは,信頼関係の破壊を決定的にする行為と僕は感じています。」

として、顧問契約を解除する旨の通知をしました。

 これに対し、Xの代理人弁護士は、共同事業の合意、営業譲渡契約顧問契約は、三位一体の関係にあること、YはXに対し5月分以降の顧問料の支払をしていないこと、Yが共同事業の遂行を全て否定していることを理由に、これらの契約の解除の意思表示をする旨の通知をしました。

 そして、XはYに、1億円の支払い、416万3270円の支払い、譲渡した登録商標の移転登録の抹消登録手続を請求し、YはXに、Yの登録商標の使用差止、945万0500円の支払いを請求しました。

 

【私見】

 パーソナルトレーナーだったXは、自ら考えたダイエットメソッドがマスコミで取り上げられ人気となったので、事業化しました。Yは、フランチャイズビジネスを専門にしていましたがコンテンツを持っていませんでした。

 そこで、YはXとライセンス契約を結び、パーソナルトレーニングジムをコンテンツとしてフランチャイズビジネスに導入し、一気に事業拡大しました。経営的に行き詰まったXは、Yに営業譲渡し、顧問料をもらうという契約を結びました。

 しかし、Xは、営業譲渡後も商標を使用しつづけました。Yは、そのことに不信感を持ち、顧問料の支払いにも不満をつのらせたようです。そうして、顧問料の支払い方法の変更を通告し、争いに発展しました。

 訴訟の結果、YはXに顧問料の未払い分416万3270円を支払、Xから譲渡された登録商標を返還するよう命じられました。一方、XはYに商標権侵害として5万円を支払うよう命じられました。

 

 売上高の3~5%のライセンス料率は、一般的なパーセンテージだと思います。商標権は、このライセンス料の対象となります。

 事業を全て譲渡して一括で譲渡金を受け取る場合などは、商標権も付随して譲渡することが多いです。ただ、本件のように事業譲渡後も顧問料として実質的なライセンス料を受領する場合は、商標権は保持すべきだったと思います。営業権譲渡後も、譲渡人と譲受人が一緒に事業を行う場合、後々お金の面で揉めることが多いからです。その時に商標権を持っていない側は、非常に不利になるからです。

 

(平成27年(ネ)第10103号 損害賠償等本訴請求,商標使用差止等反訴請求控訴事件)